わたしの照れ隠しに気付いたのか、七峰くんはふっと笑って、今までよりもずっと優しい顔をした。
インハイ予選が近付き「今年こそは!」とバレー部は毎日朝から晩まで練習していて、一緒にいる時間がなくて、寂しかったから始めたアルバイトだった。
それが結果的に移動費や宿泊費になったら一石二鳥。
それを白状したら「マネージャーになればいいのに」と真顔で言われてしまったけれど。
でもマネージャーとしてすぐ横をちょろちょろしているのはちょっと照れくさいし。今でも七峰くんが好きすぎて困っているのに、マネージャーになっちゃったらますます惚れてしまうかもしれない。
トレイにフィッシュバーガーとポテト、ドリンクをふたつ乗せて差し出すと、手を伸ばした戸神を押しのけ、七峰くんが受け取る。
「頑張ってね」
「ありがとう」
「今日何時に終わる?」
「えと、八時かな」
「じゃあそれくらいに迎えに来るから、たまには一緒に帰ろう」
「ん、分かった」
目を細め、優しい顔で頷いた七峰くんが、席に移動するのをずっと見ていた。
戸神はその横で「いちゃいちゃすんなよー!」と抗議していたけれど。うるさい戸神! 高校生カップルの貴重な放課後、たまにはいちゃいちゃさせろ! ただでさえふたりは主将と副主将で仲が良いんだから!
清々しい気分で顔を上げ、店に入って来たお客さまに笑顔を向けた。
よし、頑張ろう。あと数時間後には、七峰くんと並んで歩けるのだから。
(了)