十二時十分前。
 体育館を覗くと、ちょうど出入り口の横にバレー部副主将の小野田くんがいた。
 午前の練習の最後に、順番にレシーブ練習をしている真っ最中らしい。

「昨日は大丈夫だった?」優しい笑顔で小野田くんが言う。

「あ、うん、ご迷惑をおかけしました。これお詫び」

「なに?」

 抱えていた重箱弁当を差し出すと、小野田くんは「作ったの?」とぎょっとした顔。

「今朝早起きしちゃって。食べ盛りの高校生全員を満足させるほどの量は入ってないから、おつまみ程度にどうぞ」

「ありがとう。いただきます」

「ああ、最初に言っておくけど、口に合わなかったら残してね。あとは外に出しててもらえれば夕方に取りに来るし。ヒメに預けてもいいし」

「ん、分かった」

「じゃあ、またね。練習頑張って」


 帰り際、光平くんのほうを見た。
 汗だくでひたすらレシーブをする光平くんは、わたしに気付く様子もない。

 重箱弁当を完成させたらすっきりしたし、きっともう大丈夫。また明日から、今まで通り幼馴染みをやれる。片想いを続けられる。


 晴れやかな気分でのんびり歩いて帰路について、横断歩道で信号待ちをしている、と。


「陽菜……!」

「へ?」

 汗だくの物凄い形相で、光平くんがやって来た。

 光平くんはわたしの肩をがっしり掴んで、下を向き、ぜえはあ言いながら切れた息を整える。

「ど、どうしたの? こわいんですけど……」

「おまえが、来たって、聞いて、っげほ……」

「そ、そう」

 午前の練習を切り上げてすぐにここまでダッシュって。さすが運動部は体力がすごい。