「光平くん、わたしの料理食べたことないじゃん」

「あるよ。小学生の頃、生オムライスとか言って卵かけごはん食わされた」

「それ十年も前の話でしょ」

「おまえにはそんくらいの料理スキルしかねえよ。だって卵かけごはんすらまずかったもん」

「もう十八なんだから、ある程度作れるもん」

「はいはい、分かった分かった」


 不穏な空気を察知したのか、クッキーを囲んでわいわいやっていたみんなが振り返り、首を傾げた。

「万が一料理が作れたとしても、襟首だるんだるんの部屋着で腹出して寝てる時点で女子力ねえよ」

「寝るときは楽な格好したいじゃん、いいでしょ別に」

「パジャマを着ろ、パジャマを」

「そんなことまで光平くんに指図されたくない」

「そんなんだからモテねえんだよ」

 さすがに慌てた矢本くんと副主将の小野田くんが止めに入って、静かな言い争いは終わったけれど、わたしは光平くんを睨んだまま。光平くんはにやにや笑ったまま。

 この憎たらしいにやにや顔が、じわりと滲む。

 一瞬で、光平くんの顔が引きつるのが分かった。

「光平くん、泣かした」

 同じく幼馴染みで、わたしたちよりひとつ年下の志波姫真秀――通称ヒメがそう言って、わたしは自分が泣いていることに気付いた。

 体育館で、こんなに大勢の前で泣いてしまうなんて恥ずかしくて、涙を手の甲で乱暴に拭い、踵を返した。