「ま、未経験のヤツに無理矢理してもな」



「ファーストキスを、奪ったくせに……っ;;」



「じゃあ……どうしろと?」



お風呂上がりに乾かしたまま、結ってもない私の髪をかき上げて、意地悪な問い掛けをして来る永君に、私は彼のシャツの襟元を掴むも手が震えてしまう。

逃げ方も、攻め方もわからない。

愛叶なら……。

私以外の人なら、どうするだろう。



「悠李」



「っ――…」



そっと触れた唇は、優しくて温かい。

握りしめられた手に、身体の強張りは解けて、自然と私も応えて居た。

下手くそな私に、永君は意地悪さえ言わず、ゆっくりと合わせてくれた。

それ以上の事はなかった。

恋人でもないのに。

なのに、心地良い時間で。

永君の腕の中は、想像以上に幸せな空間だった。



「お前、愛叶に言うなよ」



「何で?」



「筒抜けになるだろうが」



翌日、口止めされたけど。



「……うん。そうだね」



愛叶に話せない事があるのは、苦痛ってわけじゃない。

しかし、隠したいと思う永君の気持ちを察した瞬間、何故か胸が痛み始めた。

ないと思った、2人の愛。

私に、生まれたの……?

永君が、好きだという感情が……。