楽しい時間はあっという間なのに、退屈な時間はどうしてこうも長く感じるんだろう。


特に、後に楽しみが控えている時の退屈な時間の長さは、永遠に感じるくらい長い。
つまり、放課後デートが待ち遠しくて、授業の時間がいつもよりすごく長く感じた。


それでもやっぱり終わりのない授業はない。


最後の終業の鐘が鳴り、長い長い1日がようやく終わった。


「皐月くん早く来ないかなー」


言われた通り教室で皐月くんを待っていると、突然誰かに後ろからポンッと肩を叩かれた。


「どうした?随分ご機嫌じゃん」


慌てて振り返ると、そこにはクラスメイトの男の子が立っていた。


「……なんだ永瀬(ナガセ)くんか」

「なんだってなんだよあからさまにガッカリしたような顔しやがって」


同じクラスの永瀬くんは、1年の時から同じクラス。席替えするとなぜかいつも必ず席が近くなるという不思議な縁もあり、自然と仲良くなった男の子。
明るくて気さくで面白くて、見た目も良いから女子の間ではなかなか人気がある。


「てかさ、お前今日放課後ひま?」

「え?ひまじゃないよ皐月くんとデートだから」

「なんだよお前まだ皐月にフラれてなかったの?」

「ひっどい!!なにそれ!!」

「あはは冗談だって冗談。怒んなよ、ひでえ顔になってんぞ」


私の鼻をつまみながら、永瀬くんはケラケラと楽しそうに笑う。


永瀬くんは皐月くんと同じサッカー部。
皐月くんと一緒にいるところをよく見るから、多分2人は仲が良いんだと思う。


「ていうか、私がひまだったら何かあったの?」

「ん?あぁ。お前がこないだ行きたいって言ってた駅前のケーキ屋の優待券もらったから連れて行ってやろうかと思ったんだよ俺優しいから」

「なるほどそれは残念です。私じゃなくて彼女と行ってきて下さい」

「俺彼女いねえし……ってテメェ、今のわざと言わせただろ自分は彼氏いるからって調子乗りやがってえええ」

「い゛いいぃだだだ!!痛い痛い痛い゛!」


永瀬くんは私のほっぺをびよーんと引っ張りながら、わざと怒った顔をする。
私たちのこういうやり取りは日常茶飯事で、からかうのもからかわれるのも実は楽しかったりする。

皐月くんには絶対できないこと(ほっぺつねったり耳引っ張ったり背中に丸めたガムテープ付けたり)も絶対言えないこと(キモいとかウザいとかあっち行けとか)も、永瀬くん相手ならできるし言える。