次の日の朝、なんとなく皐月くんに顔を合わせるのが怖くて、一本遅い電車に乗ることにした。
家に忘れ物を取りに戻ったことにして、皐月くんにはいつも乗る電車が発車した直後に「電車に乗り損ねた」とラインをした。
ホームの陰で皐月くんが乗っているであろういつもの電車を見送り、少し罪悪感を感じつつ、次の電車を待った。


15分くらいで次の電車が到着し、私はそれに乗り込んだ。
座れる席は空いてなかったから、ドアの近くの割と人が少ないところに立った。


ガタン、と電車が動き出す。


「おはよ」


突然背後で聞き慣れた声。


まさか、と思いゆっくり振り返れば、そこには1本前の電車に乗っているはずの皐月くんが立っていた。


「え……なんで……」

「なんでって……それはこっちのセリフなんだけど?」


皐月くんは小さく微笑みながら首をかしげる。


「電車の中からホームに立ってるお前が見えたんだけど、全然電車に乗ってこないからどうしたんだろうと思って降りたんだよね。そしたらすぐに「忘れ物して電車に乗り損ねたから先に行ってて」ってライン来たからびっくりしたよ。乗り損ねたんじゃなくて、乗れたけど見送った、んだよね?なんで?なんで俺を先に行かせたかったの?」


声は優しいけど、目が全く笑っていない。