「あーなんだ、お前の鞄についてる変なのか」
「変なのじゃないムール貝男爵」
「名前聞いても変なのは変だから」
「お前こんなのが欲しいのか」 そう言いながら、永瀬くんは私の返事を待たずにUFOキャッチャーにお金を入れる。
しかし動いたアームは、景品の位置をほんの少しずらしただけだった。
「ほ、ほらどうせ取れないんだしもう行こ……」
そう言いかけた私を制して、永瀬くんはジャリジャリとUFOキャッチャーに小銭を投入していく。
「ちょ、永瀬くん!?」
「うるせえ取るまで帰らない」
さすが体育会系男子……負けず嫌いが板に付いておられる……。
その後も永瀬くんは100円、また100円と課金していくもなかなか取れない。
なんだか申し訳なくて黙って見ていたら、それに気付いた永瀬くんが、ぽん、と私の頭に手を置いた。
「大丈夫だって。次で落とす」
そう笑って永瀬くんがアームを動かすと、景品は上手く転がり見事に落ちた。
「ほーらな!有言実行!」
永瀬くんは満足そうに笑うと、しゃがみこんで景品取り出し口に手を入れた。
そして「ほら」と私の手にキーホルダーを落とすと、驚く私を見て小さく微笑んだ。
「ありがとう……!」
「や、別に誰もまだお前にやるとは言ってねーけど」
「えっ、あ、だ、だよね!結構っていうかかなりお金使ったもんね全然取れなかったもんねやっとの思いで取れたんだもんねそう易々と人にあげれないよね汗と涙とお金と負けず嫌いをこじらせた結晶だもんね!!!」
「バカにしてんのか」
「はいどうぞお持ち帰りください」
「はいどうぞじゃねーよ返すな。いらねーよそんな変なの」
「変なのにいくら使ったんだっけ?」
「うるせえ黙って受け取らねーなら捨てんぞこのムール貝番長」
「ムール貝番長じゃないムール貝男爵!ていうか、だめだめだめだめ!欲しい!捨てるならもらう!もらいたいです!下さい!!!」
キーホルダーを手にして喜ぶ私を見ると、永瀬くんはふっ、と優しく微笑んだ。
そんな彼と目が合って、照れ臭くて思わず下を向いた。
「それ、貸して」
永瀬くんは私の手からキーホルダーを取り上げると、私の鞄にそれをつけた。
並んで揺れる2つの色違いのキャラクターに、思わず大きく胸が上下した。
皐月くんが取ってくれたキーホルダーの隣で、永瀬くんが取ってくれたキーホルダーが笑っている。
「変なの増えて良かったな」
永瀬くんはそう言って悪戯っぽく笑った。
「だから、変なのじゃないってば」
そう言って笑い返したけど、多分上手く笑えなかった。
