「あ、おはよ!」


次の日の朝、いつも通り電車に乗ると、そこにはいつも通りの皐月くんがいた。
いつも通り、爽やかで眩しくてキラキラした笑顔。
なのに、今日はその笑顔を見ても全く胸が踊らない。
昨日の公園でのことが、昨夜から心にずっと引っかかって、皐月くんの顔を直視できなかった。


「お……おはよ……」


多分相当ぎこちない挨拶だったと思う。


今日は珍しく皐月くんの隣の席が空いていたから、2人並んで座ることができた。


「昨日のケーキうまかったよなー。近々また行こうな!俺今度はあのモンブラン食べてみたいし、あ、タルトもうまそうだったっけ」

「えっ、あ、うん」


いつも通りの皐月くんだ。
ニコニコ子犬みたいに笑って、本当に楽しそうに話しかけてくれる私の大好きないつも通りの皐月くん。
いつもなら、幸せな時間のはずなのに、今日はこの時間が無性に息苦しい。


「……あ」


皐月くんは私の鞄に手を伸ばすと、鞄に付いているキーホルダーを指でいじった。


「昨日取ったやつ付けてくれたんだ」


皐月くんが嬉しそうに目を輝かせる。


「昨日は何これって思ったけど、見慣れてくると可愛いもんだな。俺もこのキャラクターハマりそう」


結局、皐月くんは学校に着くまで昨日の公園での話はしてこなかった。

あれはなかったことにしていいのかな。

なかったことにできるならそうしたい。

あの時の皐月くんは皐月くんじゃないみたいだった。

あれをなかったことにできるなら、きっとまだ、私は皐月くんのことを好きでいられる。