あの日から、初めて喧嘩してから2週間ぐらいたった。同じクラスだが、未だに気まづくて話しかけることが出来ていない。


「おはよー。」


「あ、柚姫!まだ、朝比奈くんと連絡してないの?」


「うん。」


「そっか…。私のせいだよね。一緒に遊び行こって……」


「優ちゃんのせいじゃないよ。これは、私と頼くんの問題だし。それに、このままじゃダメだって分かってるから。」


「柚姫………。」


「ほら、もうすぐ先生来るよ。」


「う、うん……。」


これは私と頼くんの問題。これを乗り越えなきゃ。

だけど、どうしても気まづくて、話しかける勇気がない。謝らなきゃって思ってるけど。


(もう、どうすればいいのか分かんないよっ…!!)


あの楽しい時間に戻ればいいのに……。






気づいたら放課後になっていた。お昼ご飯は食べた記憶があるけど、その後の記憶が無い。きっと寝ていたんだろう。


「そろそろ、帰らなきゃ…。」

パサッ

自分の肩に乗っていた何かが落ちた。


「こ、これ誰のブレザー…?」


誰のだろう。寝ていた自分に掛けてくれたのだろうか。少し大きくて、なんだか落ち着くいい匂い。


(もしかして、頼くんの……?)


「…………!?ら、頼くん!?!?」


自分の机の前には愛しい彼が寝ていた。


(あ、やっぱり………。)


寝ている彼はブレザーを着ていなかった。風邪をひいてはいけないと掛けてくれたのだろう。


「優しいとこも、大好きだよ…………。」


ぽろぽろとあの日のように涙がこぼれ落ちる。自分のせいで喧嘩をしてしまったのに、こうして優しくしてくれる彼。


(謝らなきゃ。ごめんねって、ありがとうって。)


でも声をかけられなかった。とても怖かった。あの夢が正夢になってしまうんじゃないかって。


「私には頼くんしか、いないの。ごめんね………ごめんね…。私には、頼くんの歩んできた道のりを、ちゃんと理解できないと思う。けどそれをちゃんと理解しようとしたい。」


「私、頼くんの優しいとこが好き。少し猫舌なとこが好き。勉強を頑張ってるとこが好き。少し焦ると髪をかく癖も好き。もう、全部好きなの…。」


「臆病だから、謝ることも君を信じることもできない私を許してね…。」


寝てる彼の髪に触れる。指に絡めた髪はするんと抜け落ちていく。


(もう、帰ろう。)


ブレザーを彼に返して、カバンを持って教室を出ようとする。


ガタッ


自分の後ろで机が動く音がして振り向く。


「………えっ、嘘………。なん……」


なんでと言おうとした直後、強くきつく抱きしめられる感覚に陥った。


「頼くん、お、起きてたの………?」


「……………。」


この場から離れたいのに、きつく抱きしめられていて抜け出すことができない。


「さっきの、聞いてた……?」


「……………。」


「ねぇ、何か言っ……」


「………す、き。」


「……えっ。」


「…………い、かな、いで。」


愛しい人から初めて聞いた、声。優しくて甘い声。


「頼くん、今喋った………。」


「頼くんっ!!!」


「ご、ごめん……な。」


「ううん。私こそごめんね!!!私、ずっと謝ろうとしてたのに、なかなか勇気でなくって…ほんと…。」


「大、丈夫……。伝わった…よ。」


「オレ、も、君が好き。」


「…!!」


嬉しい。


「頼くんっ、私もだよっ!!」


そう言うと頼くんはもっと強く、けどいつもの優しさで包み込んでくれた。

仲直りができたその日、初めて君の声を聞くことができた。