偽りのフィアンセ




───地下の駐車場に一台の高級車が入って来た。それはゆっくりと俺の前に停車する。

『カナメの娘も一緒だ』

少し前に電話を切り、そう言った父の言葉が頭に浮かぶ。後部座席のドアを開け乗り込むと、反対側の窓際にその姿があった。

窓の外へ顔を背けるように座る彼女から目を逸らし、山口さんと挨拶を交わした時だった。

ふと、視線を感じて横を見ると、こちらを凝視する大きな瞳と視線が絡む。

流石に四年前ほどのあどけなさは無くなっていたが、その大きな瞳と、色素の薄い柔らかそうな長い髪、彼女が纏う気高い雰囲気は、あの頃のままだった。

そして……この後、俺は彼女に『それ』を申し込むことになる。

だが、この時の俺はまだ気付いていなかった。

彼女とのこれから始まる偽りの関係が、俺の人生を変えていくきっかけになるということに──。