「ちょっと見せて!」


私はすぐさま彼をプールサイドに腰掛けさせ、自分はプールに浸かったまま、彼の右膝を見た。


「いや、大丈夫だよ。そんな重症じゃ…」


「全然大丈夫じゃないよコレ!?」


青白い顔で大丈夫という彼に突っ込んだ。だって、膝に若干の擦り傷。そしてついさっき打ったばかりなのにもう出来ている痣。どんだけ勢いよくぶつけたんだ。見ているこっちも青ざめる。


「歩ける?」


問いかけると、彼は少し顔を歪めながら小さく頷いた。あれだけの痣だ。相当痛いのだろう。


彼の肩を支えながら、ゆっくりと私の荷物置き場へ向かう。


空いたレジャーシートの上に座らさせて、私は自分のカバンの中からポーチを探した。そのポーチは救急セットのようなものだった。


「あ、あった」


紺色のポーチのチャックを開け、中から消毒液とティッシュを取り出す。


「プールの水で濡れてるから、先にティッシュで拭くね」


右足を軽く曲げて座っている彼の前に屈んだ。返事をする気力もあまり無いらしい。少し心配。


擦り傷と痣周辺の水を拭き取っていく。軽く、優しく、叩くように。その後、新しいティッシュに持ち替えて消毒液を数滴垂らす。湿ったのを確認すると、彼の右膝に軽く押し当てた。


「っ」


「あ、大丈夫?痛い?」


彼が少し痛そうに体を揺らしたので、私は押し当てていたティッシュを離した。


「や、大丈夫。ていうかごめん、手当とかさせて…」


彼は申し訳なさそうにそう言う。私はそんな彼を宥めるように笑顔で言った。


「大丈夫だよ。そもそも私が水かけて遊び始めたからこんな事になっちゃったんだよね。ごめんね」


ばつの悪い顔で謝ると、彼は「いやいや」と首を振る。このままでは埒が明かないので、苦笑して私が折れた。


「擦り傷があるから、湿布貼れないね」


私はゴミになったティッシュを片手に首を捻る。かと言ってこのまま痣を放っておくのも良くない気がする。しばらく考え込むと、私は閃いた。


「あっ」


まず、ポーチの中から絆創膏を取り出し、彼の傷口に貼る。そして、水道で濡らしてきた冷たいハンカチをしばらくの間、膝に当てておいた。これで痣の応急処置はオーケーだろう。


「ほんとゴメン。何から何まで」


しばらく安静にしていると、痛みが引いてきたのか、彼はいつも通りの調子に戻っていた。


「そんなの気にしないでいいんだよ」


顔の前で手のひらを振って、肩を縮こませた。