やんわりと離された手を見つめた。


俺自身、自分が何をやったのか理解出来ないでいる。ひとまず起こった事を整理するため、先ほどの状況を記憶から引っ張り出した。


少し前に大雅達がナンパした女子。そのうちの一人が店の前で男に話しかけられていた。彼女に話しかけていた男は、店の前でジャンケンをしていたヤツらの一人だと、俺は気づいた。俺の予想は恐らく当たっていただろう。二人を少し遠巻きに見つめてニヤニヤしている男達が何よりの証拠だ。


可哀想だな、多方罰ゲームの対象にでもされたんだろう。彼女は。なんて思った。


彼女の後ろ姿や途切れて聞こえる会話からは、その事には気づいておらず、満更でもなさそうだった。放っておけばそのまま男に付いて行きそうだと思った。そして、男は自分の手と彼女の手を重ねる。彼女の体が揺れた。


そんな事はどうでもいい。俺には関係ない。


だけど、後ろから回って彼女の顔を目の端で捉えた時、俺はいつの間にか彼女の手を引っ張っていた。


「すみません、この子俺のツレなんで」


彼女は俺が思っていたよりもずっと、しっかりしている子だった。彼女の顔を見た時、「男に付いて行きそう」なんて事を考えていた自分が申し訳なくなった。


彼女の手を引っ張ったのは、彼女に軽い考えを抱いてた事へのせめてものの償いだったのかもしれない。


男は自分の立場が無くなったようで、ばつの悪い顔をしながらそそくさと去っていった。


その様子を見て、掴んでいた彼女の手から彼女の雰囲気が緩んだのを感じ取った。


やっぱ…一緒にいてあげるべきだったかな。と、今になって後悔。


回想を終了すると、前から足音が聞こえてきた。


「あ、結城くんは…何か買いに来たんですか?」


レジから戻って来た紺野さんがそう言った。敢えてさっきの事には触れないようにしているのか。


「いや…」


そこで俺は何を思ったのか、ふと聞いてみたくなった。彼女が傷つくかもしれない、という可能性を全く考えずに。


「紺野さん。さっきの男、罰ゲームで紺野さんに話しかけてたんだけど…分かってた?」


彼女は面食らった顔をした後、目に悲哀が滲んで来て、目を伏せた。


あ、やってしまった。と思ったが、もう遅い。


「やっぱりそうかぁ…」


ポツリと呟いた彼女は、言葉とは裏腹に今の今まで知らなかったのだろう。それでも知っていたように返事をしたのは、自分を守るためだと分かった。これ以上、傷つかないように。