「あはは、違うよ。正真正銘、俺はあなたに話しかけたんです」
まさか自分が男の人に話しかけられるなんて思ってもみなかったので、普段ちやほやされ慣れていない私は浮き足立ってしまう。
え、やばい。これは想像以上に嬉しい…というか照れくさいかも。
頬がみるみるうちに熱くなっていく。
「で、おねーさん返事は?」
男の人がテーブルの上に置かれた私の手を重ねる。思いがけない行動に思考が止まる。男の人は私のその反応を見て妖艶に笑った。
今の私の気持ちは、私を見つけてくれて…本当に嬉しい。さっきまでずっと一人だった寂しさに、流されてしまいそうだった。でも、だけど私の返事は…。
私は男の人の目をしっかり見て、不快感を与えないよう、柔らかい笑みを浮かべた。
嬉しいですけど、ごめんなさい───。
「すみません、この子俺のツレなんで」
お断りの言葉は、誰かが代わりにそう言った。そして同時に腕を引っ張られる。
私は急なその出来事に、引っ張られるまま立ち上がった。さっき目の前にいた男の人は、私を見上げて面食らった顔をした。けど、私の隣を見ると少し焦った様子で「すみません」と頭を下げてそそくさと去っていった。少し、気が緩む。
しかし、何が起こったのか理解できない。私は自分の腕を引っ張った人物を確認するべく、隣に目を向けた。
「紺野さん…無防備すぎ」
少し不機嫌な様子でそう言ったのは、少し前に別れた結城くんだった。
「え…ごめん、なさい」
何が彼を不機嫌にさせてしまったのか分からず、触らぬ神になんとやらで、とりあえず謝る。
「いや、ごめん。そうじゃなくて…」
彼は何かを訂正しようと言いかけた時、私の番号札が呼ばれた。
「えと…ごめん。私取りに行かなくちゃ」
掴まれていた腕をやんわり離して、私はレジ前へと向かう。その空気から解放されて、私の頭はやっと働きだした。
…何?何が、起こったの?何で結城くんが…?何で私を?
混乱する頭。上気する頬。思考回路が混戦しながらも、店員さんには握っていた三二〇円を渡して焼きそばを受け取った。