「……陽葵には、わからねーよ。
俺はもうピアノを聴いてほしい相手がいないんだよ」



────澄恋はもう、いないんだよ。



そうこぼした彼の目からは、涙が溢れていた。



そんな彼の姿に、胸が張り裂けそうなくらい痛む。




そうだ、きっと彼はずっと泣いていなかった。



自分の殻に閉じこもって、本心を隠して。
人と関わることを拒んだ。




「それでもっ!
お姉ちゃんは、望んでいます……っ!
先輩が夢を叶えて、また前を向いて進むことを」




ねえ、天音先輩。



お願いだから、一瞬でいいから。
笑顔を見せてください。




お姉ちゃんにしか見せなかったような、眩しい笑顔を。



私にも……お姉ちゃんの妹としてではなく、ひとりの女子として。
向けてほしい。



そんな思いは日に日に募っていくばかりだ。