「音中さん、楽しそうに歌っていたのに」
楽しそうに……?
違うの。
それは何も知らなかった頃の私。
今の私はもう輝けるはずがない。
何をしても楽しいと感じないのに。
「私はもう歌わないって決めたから」
怖いくらいの真顔でそう返答する。
それでも彼は自分のペースを崩さず、変わらず眠そうなまま。
私にとって、歌を歌うことが1番の生きがいだった。
だからこそ、今は歌うと苦しくなるばかりだ。
「なんか、もったいない」
「え……」
どういう意味か、と聞き返そうとしたときには、彼は既にいなかった。
本当に、マイペースで不思議な人だ。



