『陽葵、ごめん!
忘れ物に気づいて取りに帰っているところなの!
少し遅れるかもしれない』
『忘れ物?』
電話口からでもわかる、焦った口調。
お姉ちゃんは本当に大切な物を忘れたに違いない。
『そう、大切な物なの。
大丈夫よ、陽葵の番には間に合うように行くから』
コンクールまではあと2時間はある。
急げばまだ間に合う時間だ。
いつになく焦っているから少し心配になりながらも、自分の気を落ち着かせることで精一杯だった。
お姉ちゃんは優しかった。
何かあったら、すぐに私のことを優先する。
いつだって私の喜ぶことをしてくれる。
だから私は、お姉ちゃんが大好きだった。



