程無くしてクリスがやって来て、長持ちを避けながら部屋の中央に座り込んでいるソニアに近付いた。
 
 ソニアの側まで辿り着く間、開けられた長持ちの中を覗いて、何がそんなに彼女を放心させたのか分かったクリスは、ゆっくりと優しい口調で彼女に語りかける。

「姫君、生誕祭まではまだ時間が充分ございますよ。私も知り合いの針子に呼び掛けてみましょう。だから、そんなにガッカリしないで――」

「違うの……」
「えっ?」
 
 クリスの言葉にソニアは反応し、ゆっくりと顔を向ける。  
 
 大きなヒヤシンスブルーの瞳は、風に揺られる波のように揺れていた。

「長持ちに入っていた衣装は、お母様やお祖母様よりもっと前の時代から作られていた物で……。代が変わるたびに少しずつ手を加えて、修理して着てきた物なんです。クレア家の女性たちがずっと大切にしてきたのに……私の代でこんな……私、代々の先祖様になんて申し訳ないことを、何でこんなことに……私がクレア家を継ぐのは、相応しくないということなのでしょうか?」

「姫……それは」

「そう考えれば、今まで起きた不可解な現象もそのせいではないかと、神が身許から離れて俗世間に還るのを良しとしていなくて、罰として私に意思を知らせようとしていたのではと、それに気付かずに、のうのうと城に戻ってしまって――代々の大切な財産を……私はなんて愚か者なのでしょう」
 
 そうだ、そう考えればあの修道院から離れた時から、妙な現象が続いているのだ。


 これは一生神に仕えろ――というメッセージだったんだ。