「――クリス様」
 
 彼と目を合わせたソニアは驚いて、目を見開く。
 
 クリスの右の二の腕に幾つかの小さな硝子の破片が服を引き裂き、刺さっていたのだ。

「腕に破片が! 大変だわ、誰かすぐにお医者様を!」
 
 集まってきた者達に慌てて命じるソニアに、クリスはにこりと微笑み、首を横に振る。
 
 その余裕さはなんなのか? 痛くないのか?
 
 答えはすぐに分かった。

「――ふん!」
 
 クリスが、腕に力瘤が出るほど気合いを入れる。
 
 すると、シャンパンの蓋が開いたかのように腕に刺さっていた硝子の破片が、四方に飛んでいってしまった。
 
 クリスの腕は、刺さった跡など微塵も見られない。

「ハッハッハッ! 何のこれしき、日頃の鍛え方が違うのでね!」

「……凄いわ! 鍛えると、私も刺さった物を弾き飛ばせましょうか?」
 
 驚きから感動に代わったソニアから真剣に問われ、クリスは
「鍛えればある程度は」
と答える。
 
 周囲では

 ――ないない

 と、手のひらをヒラヒラさせている、侍女や執事達がいた。