「私の素性を明かして尚、パトリス王の名を出してもなかなか本音を話してはくれなかったから、こんな時間になってしまったが……姫君は不振がってはおりませんか?」

「はい、領地を見て回ってソニア様の生まれ育ったこの地に、良い便りを探して元気を出していただきましょうと話しておりました、とお伝えしております」

「君の方が、女性の扱いが得意そうだね」
 
 そうからかうクリスにマチューはご冗談を、と白髪混じりの眉毛を寄せて気難しい顔をする。

「――まあ、司祭の話が真実なら教皇が出なくては無理な相手かも――いや教皇でも難しいかも知れない」

「……それは、やはり……」

 更に気難しい顔を見せるマチューにクリスは
「貴方はご存じですね?」
と真顔で尋ねた。
 
 はい、と悲しげに瞳を伏せるマチューにクリスは
「王にお伝えして対策を考えなくては……。相手が闇に落ちた司祭では、色々不都合がありますからな」
と話し、馬にくくりつけておいた籠を外す。
 
 籠の中には春の野に咲く花々と、熟れた木苺、それとクリスが打ち落とした鳩が入っていた。

「この辺りの民達は気安くて良いな。すれていなくて皆、穏やかな顔をしている――良い土地に良い支配者だという印だよ」
「恐れ入ります」
「少なくてもマチュー、君が姫君に伝えたことは嘘にならなくて済んだわけだ」
 
 そう歯を見せ悪戯な笑いをマチューに見せて、籠ごとソニアに渡すために城へ運んでいった。