「――お戻りになるまで食事は待つべきだったわね。嫌だわ、一言いってくれれば良いのに」

 侍女頭に拗ねた調子で言うソニアに執事頭は

「いえ、事前にクリスフォード様からソニア様が起きたら待たずに、先にお召し上がり下さいと言い付けがございましたので」
と微笑を浮かべて答えた。

「『久し振りの長旅で、心身共にお疲れのご様子――姫君の生まれ育ったこの地に、良い便りを探して元気を出していただきましょう』とお出になられたもので」
 
 続いた言葉にソニアは「まあ」と声を漏らし、微かに白い頬を染めた。

「そんなに、お気をかけていただかなくても良いのに……」
 
 そう呟いたソニアに

「きっと、それがいつもの彼のお姿なのですよ」
と侍女頭も、煎れなおした紅茶を出しながら話しかける。

「お優しいお方でようございましたね、ソニア様」
「本当に。お優しいだけでなくお強く、騎士として名高いお方――きっとソニア様を支えてくださいますよ」
 
 侍女頭も執事頭も、そしてマチューまでも心の底から安心したような笑顔を見せて、ソニアを戸惑わせる。