――コンコン、と扉を叩く音にソニアはようやく気付いた。
 
何十回も叩いていたようだ。
時々「姫君?」とあの、いつもの呼び方で扉の向こうから話しかけている。

「……クリス様」
 
ソニアは素足のまま駆けて扉を開ける。

「お休みの挨拶に来たのですが、叫び声が聞こえたものですから。助けを呼びに行くところでしたよ。姫君、どうされたのです?」

「ク、クリスさまー!」
 
涙腺が決壊して、泣き付いてきたソニアに驚いてクリスは
「姫君、落ち着いて。何があったのか私に話していただけるかな?」
と優しく肩を撫でる。

「ロザリオが……!」

「ロザリオ?」
 
ソニアが両手で握り締めている炭化した物体が、そのロザリオだと分かるとクリスもサッと青ざめた。
 
だが、さすがと言うべきか、すぐに平静に戻り微笑みさえも浮かべる。

「これは、このロザリオが姫君をお守り下さった証でしょう」
「ロザリオが……」
「ええ、ソニア様の日頃の行いが良いからですよ」
 
ソニアは思わず微苦笑してしまう。信仰心と言わずに日頃の行いとは。

(まるで子供に言い聞かせているみたいね)

 確かに二十一の年の差だ。クリスからしたら、まだまだ子供に見えるかも知れない。