確か、この方角で良いはず! というか、目的地の通過地点じゃないか!

「わあ、なんかイヤらしいこと考えてる顔~」
 
 クララの囃し立てに我に返った。

「の、覗きこむんじゃない!  歩きづらいだろう!」
「大方、幼なじみのクレア公爵夫人に助けを求めるおつもりなのだろう」
 
 ――うっ! アニエスめ

「それで、ついでに寝とっちゃうつもりとかあ?」
 
 ――いっ! クララ?

「無理ですな……」
 
 ――クレモン? 

 何だその同情の顔は!
 
 もうムカッと来るね!
 
 腹立つね!
 
 殴っても、倍に返ってきそうだから殴らないけど。
 
 王子として敬わない態度も、その『無理無理、あんたに落ちる女なんていない』ていう態度が、腐臭のように漂ってくるぞ!
 
 そんなはずはない。
 
 王宮で僕は、いつでも女性に囲まれていた。
 
 僕にたった一言、言葉をもらっただけでも一生の宝物だと泣いて喜ぶ者だっていた。
 
 先を争って、僕とダンスを踊ろうと火花を散らしていた。
 
 そんな中、ソニアはずっと修道院で暮らしていた。
 
 世間、特に男性のなんたるかを知らない彼女は身を呈して自分を守ってくれたクリスが、最高の男性に見えたに違いない。

(……確かに、悪魔から身を呈して守り抜いたのは……すごい。百歩譲っても良い)
 
 だが! 百歩譲っても、やはり僕のほうが身分も若さも容姿も勝っている!
 
 ――そうだ! もう一度やり直そう! 今度は誠心誠意込めて心から求愛をするんだ!