初対面で思った熊にはもう見えない。
 
 もう髭だって、毛深くたって怖くない。
 
 自分に熱く求婚をするのは、一人の国の宝である騎士の一人。

 
 ――自分の危険を顧みずに、私の窮地に手をさしのべてくれた方。

 
 今度は温かい物と共に、嬉しくて瞳から涙が溢れては頬を伝う。

「……嬉しい……本当に私でも良いんですか?  こんな子供にしか見えないでしょう?」
「何をおっしゃるか!  ソニア様は素晴らしい淑女でいらっしゃる!  短い間でもそれはよく存じております!」
 
 クリスは力強く言い放った。
 
 ソニアも彼の手を握り返す。

「これからもどうぞよろしくお願いします、クリスフォード様」
 
 ソニアの承諾にクリスは破顔した。

 

 今までに見たことのない彼の笑顔は、嬉しいのと泣きたいのとが混じったようなものだった。