「すまないね、王宮内でもそなたの話で持ちきりでね。お近付きになりたくて仕事に手がつかないらしい」
「何だか、噂が一人歩きしているようで……。あれを倒したのもクリス様あってのようなもの。それなのに王宮の仕事にまで、差し支えが出るようなことになるまで大袈裟になるなんて……」
 
 申し訳ありません、と謝るソニアにアロイスは朗らかに笑った。

「――何、ソニアのせいではないのは分かっている。気にすることはない」
 
 そう言うと、
「実は今、王と王妃はクリスと女騎士を交えて話をしていてね、もう少し時間がかかりそうだから私と王太子妃の三人でお茶をしようと誘いに来たのだよ」
と、軽くウィンクしてみせる。

「――クリス様が? 」
 
 女騎士――何のお話をしているんだろう、とソニアの眉間に僅かな皺が出来る。
 
 気になるのか、とアロイスは意味ありげに微笑む。

「彼の将来に関わることだ」
 
 ――将来?

「……結婚……とか……でしょうか?」

 さりげなく、平静を装いながら尋ねたつもりでも、声が震えてしまう。

「私は部外者でね。答えることは難しいな」
 
 アロイスはそう答えると、ソニアを客室の一つに案内した。

 
 そこには綺麗な青色の瞳を持つ、華やかな彼の妻がソニアを出迎えてくれた。
 
 瓜実の綺麗な輪郭に、笑うと揺れが分かるほどの長い睫毛は、更に彼女を華やかにしていた。
 
 クリスと噂のある王太子妃と対になって茶を飲み、ソニアの心は複雑だった。
 
 はっきりとクリスとの関係の真実を聞くことも出来ず、この後の王と王妃との謁見も気がそぞろで何を話したのかよく覚えていなかった。