王宮に到着しても、ソニアは注目の的であった。

 
 夏至祭は明日から。
 
 パトリス王と王妃にまず挨拶の為に、謁見の間に向かう。
 
 その間にも、王宮に仕えている者達の注視が熱く注がれる。
 
 王宮仕えの中には、高い身分の貴族の子息だっている。その者はすぐに分かった。
 
 豪華絢爛な格好でこれ見よがしに、ソニアの視界に入ってくるからだ。
 
 一足早く煌びやかな装いで、咳払いをしたり、「もし? こちらを落とされましたか?」とわざわざ用意したのだろうハンカチを渡そうとする仕官など、様々な方法でソニアに近付こうとする。
 
 一歩進めばそんな状態で、ソニアも呆れを通りすぎてイライラしてきていた。

(先に進めないじゃないの!)
 
 この直線コースの渡り廊下に、いったい何人潜んでいるのか――ソニアは回れ右をして帰りたくなった。


「ソニア!」
 
 そう名を呼び、こっちに向かって駆け寄ってくる人物が誰だか認識すると皆、慌てふためいて腰を折る。
 
 ソニアも驚いて最大の礼を取った。

「渡り廊下の様子を聞いて、迎えに来たのだよ」
「まあ……! 王太子様に、わざわざお迎えにきて頂けるなんて。身に余る光栄に存じます」
「堅苦しい言い方はよしてくれ。昔のようにアロイスお兄さまと呼んで欲しいものだ」
 
 はは、と快活にアロイスは笑うと、ソニアの手を取って歩き出した。

「皆の者、祭りにはまだ早い。恋に花を咲かせるのは明日からにして、今日は各々の役目を果たしてくれ」
 
 凛とした声で、浮き足だってこちらを見つめている若者達に諭すように告げる。
 
 王太子が自らエスコートでは、下手な振りをして近付けないというように、周囲の歩行の邪魔は無くなった。