夫人はビクッと一瞬肩を揺らすとソニアに
「え、ええ。カトリーヌは昨年、ブルジエ伯爵のご長男の元に嫁ぎましたの」
と、笑みを浮かべながら答えた。
 
 だがその笑みも、夫人が無理して作っているのではないかと思わせるようなものだ。
 何せ片側だけ口端が持ち上がり、不自然な皺が出来ている。

「そうでしたの? すみません、知らなくて……。お祝いの手紙も品物も何もお送りしていなくて」
 
 ソニアの実家にも城の管理を頼んでいる城代がいる。
 その者が月に一度、修道院に必ず出向いて手紙や管理の報告をしてくれている。
 父の代から仕えている信頼ある男だ。
 なのに昔から交流があった侯爵の娘の、結婚の報告や祝いの品物を送ったという話しは一切聞いていない。

「き、気にしないで。あの、ほらあの娘、内気だから、派手に公表しなかったのよ、ね? 貴方」
「あ、ああ。そうなんだ。こちらの事情だから気にしなくて良い」
 夫人の同意を求める声に、侯爵も慌てて頷いた。

「そうでしたの……。では、後ほど改めて祝いの品を送らせていただきますわ」
 
 二人の態度に釈然としないものの、ソニアはそう締め括ろうとしたが――

「い、良いの! いらないのよ! 呪いのとばっちり―― !」
 
 いきなり夫人がそう叫び、慌ててふためいて立ち上がった。

「止めなさい!」
 それを侯爵が厳しい口調で諫めた。