「私が怖いでしょう? 髭を生やした男が怖い――何故だか、貴方は自分で分かりますか?」

 <黙れ……黙りなさい!>
 
 
当然、クリスは相手の命令など聞く気なんてしない。
「教えましょうか? 貴方の味方について力を授けているのは、バフォメット! そう、悪魔ルシファーに仕える六大悪魔の一人!」

 <う、嘘だ! 嘘です! この力は、死して身体は無くなっても魂は神と同等となった証し!>
 
 動揺し、ふらつくファーンズにクリスは剣を両手に持ち、ジリジリと近付いて行く。

「――昔、バフォメットはミカエルに戦いを挑み、こっぴどく負けたそうですね。その様子は、クレア家の宗教画にありました。大天使ミカエルのその姿は、今流行りの見映えよい青年達の姿ではない。寝ずに長い間、戦い続けて髭も生えた者達の姿でした。貴方が髭が怖いのは、その戦いで負けた記憶が鮮明だからでしょう!」

 <――嘘だ―――― !>
 
 ファーンズが絶叫した。
 
 パメラの身体が、ビリビリと雷に打たれたように痙攣を続けている。
 
 クリスは剣を包んでいたダルマチィカを羽織る。
 
 それは、まるで戦闘時に着用する鎧のように。

「もう認めなさい! そして悪魔に捕らわれた自分を、パメラ様の身体から出すのです!」
 
 剣先を向け、畏怖堂々と話を続けるクリスの身体が、ぼんやりと光を放っている。
 
 白い柔らかな輝きは――

(加護魔法?)
 
 こんなにはっきりと見える加護は初めて見た――ソニアは改めて彼の『ディヤマン』としての能力に感嘆して見入っていた。