「ソニア様! クリス様まで!」
 
 突然の帰宅に、さぞかしマチューや執事頭など驚いただろう、そうソニアは思っていたが、出迎えに来たマチューの、どこかホッとしている表情を見て違うと察した。

「城内で変わったことは無かった? いつものと違うような出来事……」
「おおありです!」
 
 ソニアの、まるで自分達の言いたかった内容を先読みした言葉に仰天しながら、マチューは報告する。

「封鎖してある城内の祈祷所の中から人の声と、ラップ音がしきりに! 中を確認しようにも開かないのです、閂を抜いても!」
 
 ソニアとクリスが目配せし頷き合う。
 
 ――いる。待っている。

「分かりました。私とクリス様で出迎えます。マチュー達は……そうね、何かが起きてもすぐに避難出来るようにしておいて」
「何を仰いますか! 我々も行きます! 既に城の兵士達は待機状態です!」
 
 マチューの言葉にソニアは駄目と首を振る。

「相手は私達と同じ生身の人間じゃないの。闇雲に突っ走って、犠牲者を増やすわけにはいかないわ……お願い、私とクリス様に任せて」
「ソニア様……」
 
 自分に向けて綺麗に口角を上げて微笑むソニアに、マチューは真実を知ったのだと悟った。
 
 覚悟の微笑みだろうとも――

「私も……私も共に参ります! この身はクレア家に捧げております! 例え滅びようとも共に戦います!」
 
 瞳に涙を浮かべてマチューはソニアに訴えた。

「私も……!」
「私もです!」
 
 執事頭に侍女頭も揃って訴える。
 
 まるで、ソニアの身代わりになることも厭わないように。
 
 三人の必死な姿にソニアは驚いて、開いた眼から涙が滲んできた。

「……ありがとう、みんな。嬉しい……私、一人じゃないって、分かる……」
「何を仰いますか! 私達は小さい頃からソニア様をずっと見守って、お慕いしてきたのですよ?  幸せになる日を心待ちにしてきたのですよ!  後少しで、ソニア様の幸せなお姿を見る日が来るというのに……壊してなるものですか!」
 
 三人の中年に抱き締められて、ソニアは涙を流した。
 
 ――絶対に呪いを断ち切ってみせる!
 
 馴染みの温もりに支えられ、ソニアは思いを強くした。

「よく分かったわ。でも、祈祷所の中には私とクリス様だけ入ります」
「ソニア様!」
 
 三人一斉に非難の声を聞いても、ソニアは頑として受け入れない。

「相手は私の大事な物や人を壊して、絶望に追いやって、生きる希望を無くそうとしているの……。一緒に入ったら、あなた達が真っ先に狙われるわ、きっと。――お願いだから外にいて。私があなた達と生きていきたいと思いながら戦わせて」
「ソニア様……」
 
 主人の決意は固い。それは口調や態度に滲み出ていた。