ギュッと自分を抱き締める腕の力強さに、ソニアは我に返った。

「――ソニア様。惑わされてはいけません」

「クリス様……」
 
 すぐ近くに、こんな近くに、怖かった髭の顔があるのにどうしてだろう? 
 
 彼のその笑顔が自分を安心させ、胸に温かいものが沁みて、身体に広がっていくように感じられる。
 
 彼の笑顔はどうして『大丈夫』だと『逆境を乗り越えられる』と自信を持たせてくれるのだろう?
 
 ――彼のこの笑顔が、私をいつも勇気づけてくれた。
 
 必死に泣き止もうと笑顔を作るソニアに、もう一度クリスは微笑む。
 
 そうして、パメラに眼差しを向けた。
 
 意思のある強い眼差しを。

「『殺す』そう言ったわりには、ソニア様に近付きませんな? 何故です?」
 
 その言葉に、悔しそうにパメラの身体を乗っ取った男の顔が歪む。

「代わりに私が言おうか? ファーンズ司祭!」
 
 咆哮に似たクリスの声が、部屋中に響く。

「貴方は私の『髭』が怖い! だから、ソニア様に寄り添っている私がいるから貴方は近付けない!」

 <ぅ……ぐ、ぐう……。違う、貴様の見当違いだ……>
 
 そう言いながらも、パメラから歯ぎしりの音が聞こえる。

「何故、『髭』が怖いのか……貴方は自分で理解されているか? そもそも理解していたら、いつまでも『神』の御使いだと名乗りはしないでしょうがね!」

 <何を、何を……! 私は神に選ばれたのです! 神の名の下に罰して良いと!>

「では! 私に近付いて見ると良いでしょう! 私も神から授かった『加護魔法』を持つ身、貴方が死して尚も神の言葉に従っているなら、私に近付けるはず!」

 <うう……! チクショウ! チクショウ!>
 
 歪んだ顔を更に歪ませて、身体まで捻り悔しがるパメラの姿は、女の形でありながら男のよがる様に見える。