――その時

「ソニアから離れなさい!」
 
 王妃の怒りによって放たれたヒールが、パメラの顔に直撃した。

 <――ギャッ!>
 
 手に持つ短剣がソニアの喉から離れた瞬間を、クリスは逃さなかった。
 
 パシン! と言う弾けるような音がし、短剣が床に滑る。
 
 同時に、軽いパメラの身体も弾かれて床にふっした。
 
 クリスは急に意識を戻したソニアを抱き寄せて、剣を抜いた。
 
 ――パメラに向かって。

「ソニア様の無二の親友の身体に乗り移り、近付くとは……! 彼女の身体から離れろ!」
「……クリス様? 何が? 止めて、パメラに剣を向けるなんて!」
 
 今、目の前に起きている緊迫した現状に混乱をしながらもソニアは、親友に剣を向けているクリスを止めようとする。

「ソニア! 怖いわ! 」
 
 怯えた眼差しで、剣とソニアを交互に見て泣き出したパメラは、いつものパメラだ。

「クリス様! 剣を下ろしてください!」
「彼女は貴女の親友であっても、親友ではありません! 貴女に手をかけようとしたのですよ?」
「――それは……私達、死のうと……」
「何ですと?」
 
 ソニアの告白にクリスは仰天し、ソニアに視線を移す。

 <そうよ、邪魔しないで!>
 
 パメラの口からまたもや男の声音が出て、刹那――自らクリスが向ける剣の先に、身体を投げ出す。

「パメラ、駄目!」
 
 ソニアが叫んだ。
 
 叫んだと同時、パメラの身体が横に吹っ飛んだ。

「王妃様!」
 
 パメラの横っ面をひっぱたいて、剣先から回避させたのは王妃だった。

「……先程から怪しいのよ、貴女。うら若い女性の声と、親父臭漂う声がはもっていて――どなたが取憑いていらっしゃるのかしら?」
 
 王妃が、ヒラヒラと真っ赤になった平手を冷ましながら、吹っ飛んだパメラを見下ろす。