「―― !」
 
 クリスの視界に飛び込んできたのは、失神同然のソニアと、ソニアを抱き寄せる黒髪の娘。
 
 二人の手には鋭利に輝く短剣があり、ソニアの喉笛に向かっていた。

「――止めなさい!」
 
 駆け寄ろうとするが、黒髪の娘が、
「近付くな!」
とクリスを激しく威嚇した。
 
 見ると、ソニアくらいの年頃の娘だ。

(どこかで見たことが……)
 
 そうだ、修道院にソニアを迎えに出向いた時、彼女の傍らにいた少女。
 
 ソニアの口から、よく名が上がっていた。

「……パメラ、様か……?」
 
 クリスの問いに少女は蠱惑的に、だが禍々しく微笑む。

「何をなさるか。そんな危ない物は下ろしなさい。貴女には相応しくない」
 
 ある可能性をクリスは考えていたが、断言できない。
 
 ソニアの親友のパメラなら、彼女からクレア家の事を聞いたかも知れない。
 
 ――だが

「兵士と侍女が倒れていました。――貴女の仕業か?」
 
 剣一つさえも握ったことの無いような細い腕には、二人の人間を気絶させる程の力が、あるように見えない。
 
 それに、娘の声に被るように発せられる声は男の声音だ。
 
 考えられる事は一つ。
 
 一歩、足を進める。
 
 慎重な様子のクリスを見て、パメラは薄笑いを浮かべた。

<もう、遅いわ! クレア家はこれで滅亡するのだ!>

「―― !」
 
 だらんとソニアの頭が後ろに反り返り、白い首筋が露になる。
 
 その喉笛に向かって、パメラは短剣を突き刺そうと振り落とした。