彼とのコンパスの違いもあるが、クリスの足並みはヒールを履いた女性には、ほとんど駆け足だ。

「ちょっと……クリス!  少しは後ろから付いていく、わたくしのことも気を遣って!」
 
 堪らずに言い付けた王妃に、クリスはようやく気が付き「申し訳ない」と歩みを遅くする。

「――いつもは気を付けてくれると言うのに……今夜はどうしたと言うのです? クレア城に行っている間にマナーを忘れてしまったの?」
「いえ。……ソニア様のことが気がかりなもので。嫌な胸騒ぎがするのです」
 
 振り返るクリスの表情は固い。
 
 いつものように余裕のある態度の彼ではなく、王妃は片眉をあげた。

「ショックで自ら命を絶っているかも知れない。――いや、そうでなくても一人で過酷な運命を背負うことに真実味を帯びてきて、怯えているかもしれません。何はともあれ、行って差し上げないと……」
 
 早口で捲し立てるクリスの歩調が、また早くなる。
 
 一刻も早くソニアのもとに行かなければ――と逸る気持ちがいつもは最大限に礼を尽くす王妃に対し、ぞんざいな態度になっていた。