「クリス、貴方にはいつも大変な役割を押し付けてしまって、悪いわね……」
 
 クリスの誘導に付いていきながら、王妃がしんみりと言ってきた。

「何をおっしゃいますか。私は大変だと一度も思ったことはありません。今だって、ソニア様のお力になれることがとても嬉しく感じておりますから」
 
 そう微かに笑うクリスの後ろ姿を、王妃はじっと見つめる。
 
 いつもと違いを感じながら。

「だけど、婚約のことだって本当は――」
「王妃」
 
 シッ、とクリスは人差し指を立てる。口外はいけない、と言いたげに。
 
 王妃もいけない、と慌てて口に手を当てた。

「どこに聞き耳をたてているか分かりませんからね、奴は。まあ、私を相当嫌っているようで、恋い焦がれるように引っ付いてはいないようです。髭が怖いのでしょうかね。今後は、このまま生やしても良いかと思っていましてね……」
「教皇は『髭を生やすように』と仰ったけど……なんの意味があったのかしら?  神のお告げとはいえ、こちらとしては見当も付かないわ」
「それは、クレア城に行って分かりました。意味の無いことではありませんよ」
 
 そう、と王妃は頷き、懸命にクリスの後ろをついていく。