王妃は口より先に手が出るタイプだ。しかも喧嘩っ早い。
 
 その嫋やかな身体付きに似合う、細いヒールを履いた足からくり出される蹴りと、己の痛みを顧みないパンチ。
 
 親子共々恐れている威力だ。

 だが、セヴランは昔から妃の一番のお気に入りで、蝶よ花よと可愛がられていた。
 
 当然、母から制裁を食らったことはなかった。
 
 例のカトリーヌとの不倫も。賭け事で作った借金が露見した時も。
 
 ――それが今回、扉が開いたと同時、制裁パンチだ。

「酷いよ! 母上! 今まで何があっても、僕には殴ったこと無かったのに!」
 
 セヴランは、自分の唯一の味方であると認識していた母妃に殴られ叱られたことに、かなりの衝撃を受けたようだ。

 じわりと瞳から涙が出ている。
 
 そんな息子を見て妃は
「こんな愚息に育ててしまったわたくしに責任があるから、お前を庇いたてすることをしなかっただけです! 王の采配にお任せをしてただけですよ……!」
と、ヒステリックに言い返す。

「だけど、今回はもう我慢できません! 王の従姉妹であり、わたくしの大切な友人の忘れ形見を弄ぼうと計画するとは……! そりゃあ、お前たちが小さい頃はいずれは想いあってくれれば、とは思いましたよ。だけど自分可愛さに嘘の愛を告げて、結婚を申し込んだなんて……!」
 
 ヒスは通常の何倍の力を出すのか――屈強の騎士のクリスも、王妃の暴れっぷりに辟易気味に押さえつけていた。