パメラは、ソニアの姿をまるで自分の視界から消すように俯き、言葉を続けた。

「ソニアがそう思うのは、私がそうしなければ怖かったからよ。私を囲む周りの人達の感情を読んで、嫌われないように接することに一生懸命だった。貴女みたいに素直な感情を顔や態度に出して、それで傷付くことが怖かったの」
「パメラ……そんなこと――」
「それより、話を戻しましょう?  私のことより、クリス様のソニアに対する態度の方が問題でしょう?」
 
 顔を上げたパメラににっこりと微笑まれた。
 
 ソニアは彼女の厳然とした笑顔に気圧されて「ええ」と頷いてしまった。

「それにしても……クリス様の態度はしっくり来ないわね。婚約時と新婚の時って――こう……あま~い雰囲気で、二人目を合わす度に笑いあっているものかと思っていたわ」
「……初対面で、私が気絶したせいかしら」
 
 そう考えると、クリスの態度や言い分を非難することなど出来ない。
 
 ――思いっきり態度で拒絶を表したから

「……本当に。いくらセヴラン様じゃなかったからと、気を失うなんてどうかしているわ、私」
「それにしても『どうぞ好きに浮気してください』なんて……」
「浮気、なんて! クリス様はそんなことを言ったのではなくて――」
「意味は同じじゃない?」
 
 パメラの有無言わせない言い方に、ソニアの口が閉じる。

 だから自分もあんなに憤ったのだ。

「貴族の家庭の中では、たまに浮気公認で自由に恋愛をしているご夫婦もいらっしゃるようだけど……クリス様はそちら派なのかも知れないわね。あの方、王宮の騎士でそういうラブロマンスに事欠かない人だったみたいだし」
「……初めて聞いた……」
 
 パメラの口から聞いた話は、ソニアを固まらせた。

「デビューの紹介待ちで聞き耳をたてたのよ。パトリス王に謁見でとても注目を浴びていたのよ、貴女とクリス様」