(クリス様の馬鹿! 知らない! もう勝手にするんだから!)
 
 後から後から流れて止まらない涙を懸命に拭いながら、ソニアは王宮で宛がわれた自分の個室に行こうと走る。
 
 やんごとない貴族の娘が、一人泣きながら走るなんて奇行の他ならない。
 
 しかし今のソニアには、そんな周囲の視線や声など全く耳にも入らないだろう。
 
 それでも、場所が人気が無い場所から王の身内以外には、入る事が出来ない場所を走っていたのが良かった。
 
 驚いて廊下の端に寄る侍女数人に会うくらいで、自分の個室がある練に辿り着いた。
 
 遠くから微かに聞こえてくるダンス曲の音楽。
 
 招待された者達は楽しんでいる真っ最中だろう。

 男女の睦みの時間には、まだ早かったのが幸いか。