珍しく彼が、自分から目をそらしていることが腹立たしく思い始め、頭の中で彼への罵詈雑言が駆け巡る。

「全て王の命令? クリス様と結婚することはパトリス王が決定した事だと、よーく存じています! それはそれで、私は受け入れていました――そりゃあ、髭とか濃い体毛とか……苦手かな? と自分の好みを再確認しましたけど、でも、クリス様は本当に良い方で、いつかきっと髭だろうがなんだろうが受け入れられる日が来るだろうって思っています! 私は私なりにクリス様をお慕いしようと努力してきました! ――けども、クリス様は『王の命令』が一番で最優先で何よりも大事なんですね!」
「姫……!」
「『姫』と頑なに呼ぶのは、『王の命令』ですか? クリス様は『王の命令』なら王が『うん』と言っていれば、セヴラン様が私にしようとしたことを見逃していたのですか? 王の命令があれば私を他の男の方に引き渡すのですか?」
「――それは!」

 聞きたくない
 
 これ以上

 
 我慢していた涙が頬を流れる。

「私は私ですから! 好きにしますから! クリス様なんて知りません! ずっと王の命令に付き合っていれば良いんだわ!」
 
 部屋に戻ります!
 
 ――ソニアは自分の手を掴もうとするクリスの手を扇で叩くと、彼から離れたくて一目散に逃げた。