残されたソニアは今、とても気まずい思いでいた。
 
 ギュッとドレスを掴み、肩を強張らせてじっと大理石の床を見る。
 
 顔を上げてクリスの方を見れなかった。
 
 修道院にいて色恋沙汰に疎い自分だって分かる。

 セヴランが、自分に何をしようとしていたのか。
 
 そして自分は彼の顔に見惚れていて、拒むことをしなかった。

「姫君、我々も戻りましょう」
 
 差し出された大きな手を、ソニアは驚きながらも見た。

 そしてゆっくりと顔をあげ、クリスを見上げる。
 
 彼は相変わらず微笑みを浮かべ自分を見ていた。

 ――どうして?

 
 彼はこうして、変わらずに優しく接しようとするのか。
 
 改めて確認された事実に心が、冷たい泉にゆっくりと沈んでいく気がする。

「……お怒りにならないのね」
 
 何かを堪えるように発せられた声は、自分ながらにも低いと思った。
 
 知ってか知らずかクリスは、困ったように眉尻を下げて苦笑いをした。

「沢山の方と知り合って、交流をして欲しいと言ったのは私ですからな……ただ」
「ただ?」
「今のセヴラン様は宜しくない。仲を深めることはお止めになったほうが良い」
 
 ――カアッ、とソニアの身体が一気に熱くなった。

「何故ですか? あの方は私の幼馴染みです! 仲良く昔の思い出を語って、こうやって会っていてはいけないと仰るのはどうしてなのです? ――それに沢山の方と交流を深めなさいと仰ったのはクリス様なのに!」
「……王の命令なのです」
「えっ……?」
 
 次の言葉がすぐに出なくて、ソニアは口を開けたままクリスを見上げた。