◇◇◇◇
 
 ああでもない、こうでもない、と散々侍女達に弄くられたソニアの支度が、ようやく終幕を迎えたのが夕方の日が落ちる前であった。

「良かった! 舞踏会に間に合いそうですよ、ソニア様」
「良かった。本当に……」
 
 心の底から安堵したソニアの声に、侍女達も満足気に頷いた。
 
 自分と侍女達の安堵の意味が違うことは、多分ソニア自身しか知らない。
 
 長い時間、ドレスを取っ替え引っ替え、ようやく決まったドレスも「レースの位置が」とか「サイズが微妙に違う」とか修正が入り、そこからドレスに合うヘアスタイルに髪飾り選び。
 
 髪型も侍女達が喧々諤々しながらようやく決まり、髪飾りを付けるのも大変長い時間を要した。
 
 後は手袋に首飾りに耳飾り。
 
 無事だったクレア家の宝飾を修理し、持ってきた物だ。
 
 最後に靴の調製をしてお仕舞い――

(終わった。ようやく……疲れた)
 
 ソニアの素直な感想だ。途中で寝てしまったくらいだ。

(こんな大騒ぎが明日も明明後日も続くなんて……。お洒落が好きでも限界、無理!)
 
 満足のいく仕立てに安堵している侍女達を余所に、ソニアは長い溜息を付きながら椅子に座ろうとすると
「ドレスが皺になります!」
と叫ばれ、慌てて立つ。

「座るときには合図をして下さい。私達が裾を整えて皺を抑えますから」
「ご、ごめんなさい」
 
 座る合図を決めて、ようやく腰を落ち着けたソニアは、改めて鏡の中の自分を見つめる。