「私は王宮に仕える騎士です。そのような場所に仕える騎士達は、剣や武道も当たり前ですが礼儀や作法、会話も一流でないといけません。それは騎士道の習いにも組み込まれております。女性に対する細やかな気遣いや優しさは、騎士として当たり前で必須なわけです。――私は一人の騎士として女性に接していたわけで、疚しい気持ちなど起きたことはありません」

「――と、言うと……私を『姫』と呼ぶのは、騎士としての習いであって『女性』として見ているわけではないと?」
 
 ソニアは少々ムッとして突っ込みを入れた。胸に指で突かれたような軽い痛みを感じながら。
 
 長い沈黙があった。
 
 クリスの顔が、ほんのりと朱に染まっているままで。

「……まだ、髭が苦手でしょう? だから『騎士』として『姫』をお守りする役割で、しばらく徹したいのです。もし、どうしても駄目だと貴女が後悔したら……この先、辛い結婚生活になりますから」

「クリス様……」
 
 ソニアは項垂れた。
 
 そこまで自分を思って、考えていてくれていたなんて。
 
 正直、王が選んだ相手なら大丈夫、『仕方がない』と思って諦めていた。