鋭く見下ろしてくる男は、僕が知っている人だ。



 夏海先輩に出会った時、カツアゲをしてきた人。



 夏海先輩と付き合ったとか、ケンカしたとか、いろんな噂があったけれど。確か、学校を辞めたはず。
 名前は確か、不破秋。



 僕の知らないところで、夏海先輩とたくさん噂になっていた。だから僕は、この人が苦手だ。



 僕の知らない夏海先輩を知っている。
 だから……。




「悪いな、春真」




 疾風さんは僕の腕を取って立ち上がらせてくれた。
 と思ったら歩き出す。




「疾風さん! え? え!?」




 転びそうになった所を秋さんに支えられる。
 そのまま2人は僕の脇を固めるように腕を離さない。




「ちょっと待ってください!」


「待たない」


「僕がなにをしたって言うんですか!」


「なにもしてないからだろ」


「え、え? あの?」




 訳が分からないまま、僕は体育館へと連行される。



 生徒会役員選挙スピーチをここでやるのだと知ったのはその後で、まさかそこに彼女がいるとは思いもしなかった。