「殴って脅して、支配しなければ愛されないなんて、本当に可哀想な人」
「駄目、夏海!!」
雪乃の震える声と同時。
私の耳がおかしくなったのかと思うほどの音。痛み。
その勢いに気がつけば床に頭を打っていて、驚いて起き上がれなくなっていた。
「言いたいこと、それだけ?」
人に殴られるって、こんな気持ちなんだ。顔を殴られるって、こんなに苦しくなるんだ。
悔しくて、切なくて、痛みなんてどうでもよくて。すごく、悲しい。
疾風と殴り合いのケンカをした時には、こんな気持ちにならなかった。
殴る痛みも、殴られる痛みもわからない子供で。本当に残酷なことをしたんだと、今ならわかる。



