「懲りないのな」


「…………」


「やっぱり夏海って最悪。そうやって、そいつも傷つけて知らないふりするんだろ?」


「違……っ」


「最悪だよ、夏海」




 何も言えなかった。



 口を開きかけた時、手に持ったジュースがプルプル震えているのが見えて、その意味を悟ってジュースを落としていた。



 その足が勝手に疾風から離れていく。
 動かない口とは対照的に、足が彼を嫌うみたいに距離を取り始める。




「夏海先輩?」




 そんな春真くんの言葉がきっかけだった。



 私は走り出していた。逃げたんだ。
 疾風から、私の過去から。
 春真くんからも、逃げた――。