それから、数日におよび
彼女を見かけた時間帯に
あの周辺にマーケティングがてら
出かけてみたけれど
見かけることはなかった。


「龍起さん、いい加減に
してくれませんかねぇ。

こんな時間帯にマーケティングって
バカですか。貴方。
魂胆が見え見えなんですよ。

どう見たって、今回の
ターゲットに成り得る
商社勤めのOLなんて
残業ならいざ知らず、
普通、この時間帯の退社じゃ
ないでしょ。」


地下街の柱にもたれ掛り
小言を述べる毒舌秘書の
的確な指摘に、情けなくも
ぐうの音もでない。


「…だから…夕方から、
やってるじゃないか。」


「私が言っているのは、
副社長自ら行う様な仕事じゃ
ないってことですよ。」


…じゃあ、ついて来るな。
毎度毎度、監視するな。


「お前が付いてこなくても
いいのだが。俺としては。」


「貴方、起業しているとはいえ
ソコソコの家の出の
いい大人なんですよ?
貴方の拗れた恋心のまま
暴走されると困るんですよ。」


…大きな声では言えないが
…いい歳ぶっこいで、初恋だ。


「いいですか?貴方ねぇ。
大人なんですよ。
それも、周囲と比較しても
割と権力を持った
大のオトナなんですよ。

何を高校生と同じような
正攻法で待ち伏せしてるんですか。」


…いいじゃねぇか。
放っておいてくれ。

改めて言われると、
自分の純真さにバツが悪くなる。