「…クスッ…」

執事と若いメイドが
イソイソと退却し、我が社の
連中がアワアワする中
隣で、失笑するかの様な声が
聞こえた。

嫌な予感がして、隣に視線を送る。

…ヤバイ…

この空間で…

最もヤバイ存在を
忘れていた…

「あの。よろしいですか?」

スッキリ伸びた背筋
ハイヒール慣れした美脚
およばれ受けする模範的な
着こなしをしている彼女

神々しい笑みを
口元に湛えているが…
腸煮えくり返ってるだろう等
想像に容易い。

だって…現に隣接する腕が
血流が止まったように冷たい。

そして…

「別に、私、こちらほど裕福な
環境ではないにしろ、
一人で生計を立てられます。」

…やっぱ、な…

そう、くるよな…

「わざわざ望まれない所へ
嫁いだ上、老後の介護要員に
充てられるなど、こちらから
願い下げなんです。」

…え?…
ちょっと、待って?

「あ。そもそも、こちらであれば、
介護も、お金で解決なさるでしょうけど。

では、この辺で失礼いたします。」

え…?俺、振られた…??

タイミングを計っていた
この一瞬の間に??

驚きすぎて言葉も出ない俺を尻目に
綺麗にお辞儀を一つして
モデルさながらのターンを披露し
リビングの扉へと彼女は向かう。

「蒼梧!!いらっしゃい!!」

「はいっ!!」

いつ、俺のポケットから掠めたのか、
俺の車のキーを蒼梧の顔面に押し付け
犬猿の仲の野郎を覇気で制し
彼女は連れて出て行ってしまった。

…嘘だろう…?