自分の席を探すのを諦めて空いていた席に座った。
 座った隣の人が南田に気づく。

「新人の奥村です。よろしくお願いします。」

 座ったのは、あろうことか新人の女の子の隣だった。
 律儀にお酌をしようとビールをこちらに勧めているのが、ぼやっとした視界の中でかろうじて分かった。

 重ねての失態だ。
 すぐに退却しなければ…。
 しかし目立たないように移動しなければならないな。

 新人の女の子に何か言われては、社会人生命が絶たれるような危機感を感じた。

 黙っている南田に奥村は小声で質問した。

「先輩は飲み会、苦手ですか?
 私は苦手です。
 あ、内緒にしてくださいね。」

 ほどよい距離感でそう口にした隣の新人の子に少なからず好印象を持った。

 そうか。
 新人で飲み会が苦手とは苦労しているだろうな。

 南田は自分の新人の頃を思い出して、奥村に親近感を覚える。

「えっと…。君は…。」

「奥村です。」

「あぁ。悪い。奥村さんの上司は誰?」

「えっと、相原さんです。」

「そうか…。」

 相原さん。

 なんとなくしか顔が浮かばないということは同じ部でも関わりがない子のようだ。

「すみません。
 たくさんの方を覚えられなくて先輩のお名前は…。」

 いちいち律義な子だ。
 別に名前など問わなくても適当に話を合わせればいいものを。

「問題ない。先輩で構わない。
 間違いではない。」

 ほぅと安心したようなため息が聞こえて、ぼやけた不鮮明な視界の中で柔らかく笑ったように見えた。

「ありがとうございます。
 今日だけでもたくさんのお名前を聞いて正直覚えられる自信がなくて…。
 皆さん先輩で良かったんですね。」

 またコロコロと笑う奥村に南田はここの席に居心地の良さを感じていた。