華はアパートに帰っても南田の言葉が頭を離れなかった。

「好きらしい」という言葉。
 動揺したような声…それに真っ赤な顔。

 やっぱりそれは私を…好きってこと?
 いやいやいやいや。

 だいたい、私が南田さんのことを好きって前提の話ぶりだったような…。

 いやいやいや…いや…態度に出てたかもっていうのが思い当たる節があり過ぎて…はぁ。

 華はパンクしそうになる頭を抱えた。

「解消しよう」からの「今一度の契約」
 …そこから急に飛躍し過ぎて頭がついていけなかった。

 でも…もしそうなら、どうしてちゃんと言ってくれないんだろう。
 そしたらこんなに悩まないのに…。
 やっぱりからかってるだけなのかなぁ。

 どんなに考えても「南田さんは変だから分かるはずがない」という結論に達して華は答えが出ないまま眠りについた。


 朝、ニュースではハニートラップの被害にあった人がインタビューを受けていた。

 その人はいつか見かけたカップルの人だった。

「俺も実はハニートラップに引っかかったんです。もちろん当時は知らなくて…。」

 その人の隣にはあの時の女の子が一緒にいた。
 女の子が代わって話し出す。

「最初は騙すつもりだったんですけど…。
 私とキスするために入院までしてくれて。
 彼ったらキス病の抗体を持ってないのに私から感染するなら本望だって…。」

「いいんだ。
 その時に看病してくれたじゃないか。」

 仲睦まじい二人が映し出されるとアナウンサーのコメントが入った。

「美女と野獣カップルの誕生は紛れもなくキス税のおかげです。
 そしてハニートラップも…もちろん騙すことはいけないことですが、お二人のような事例もあるということで、我々も救われた思いです。」

 華もほっこりした気待ちになると自分自身のことと重ねる。

 自分もキス税に振り回されながらも、関わることはなかった南田と知り合えた。

 それが良かったのかどうかは別にして、キス税も案外悪くないのかもしれない。
 微かにそう思えるまでになっていた。

 キス税は不正な情報操作や違法行為で一時的に停止されることになった。

 解散総選挙をして新しい与党が決まり次第、新しく施行されるのか廃止されるのかが決まりそうだ。

 ただ国民の声はこうだった。

「キス税のため義務としての名目でせっかく毎日のキスが日常化したのに廃止しないで欲しい。
 税金の免除と関係なくキスはいいことだ。」

「若者の恋愛離れにメスを入れた政策だった。今後も続けて欲しい。」

「キス税払っている=かっこ悪いのプレッシャーで彼女ができた!キス税最高!」

 もちろん根強い反対派はいるものの、賛成する人が多いのは本当のことだったようだ。

 一時的に停止しても認証機能は残して欲しいという国民の意見を尊重して、税金免除にはならないものの認証機能はそのままにすることが決定した。


 南田との契約関係はこれを受け、続けなくてもいいことになる。

 南田とはもう一度契約をという話になっていたはずだ。

 どうなるんだろう…と不安を抱えながら出社することになった。