するとおもむろに顔が近づいてきて、手を取られた。
 赤い顔のままの南田は目を閉じた。

 そして華の頬に眼鏡を当てながら、優しくそっとくちびるを触れさせた。
 温かい吐息が華に伝わって華の胸をキュッと締め付ける。

 取られた手は認証せずにつかまれたまま、もう一度引き寄せられて、そっと離されたくちびるがまた重ねられた。

 それは息が止まるほどに長くて優しい…。

 ピッ…ピー。認証しました。

 機械の音に目を開けて南田を確認すると、いつもの無表情に戻っていた。

「な…どうして…。」

 たくさん質問したいことがあり過ぎるのに、悔しいくらいにまた自分だけ動揺している。

 華の一番の疑問に南田が答えた。

「人が動揺する顔を見ると冷静になれる。」

「!」

 そのための認証!?
 からかってる!
 やっぱりからかってるんだ!

 華はむくれて恨めしげな視線を南田に向けた。

 南田はその視線から逃げるように、そっぽを向いて思わぬことを口にした。

「僕は君のことが好きらしい。」

「は?」

 思わず変な声が出た華に南田は吹き出した。
 今の南田は街灯の明かりを背に浴びて華からは顔がよく見えなかった。

 でも…笑ってる?

「君は、はなはだ予測不能だ。」

 な…。だからそれはこっちのセリフ!

「まぁそういうところが…。」

「そういうところが、なんですか?」

 しばらくの沈黙の後に南田が口を開いた。

「君を捕獲したのだから今日はマンションに来るだろう?」

「ほ…かく…。」

 華がまた動揺していると南田が口を開く。

「捕獲ではなく捕食が望みなら僕はそれで構わないが。」

「な…。」

 ほ、捕食って!捕食って!
 そもそも私の質問に答えてない!

 どういう…。
 好きらしいって、他人事だし。
 それって…。