華は会社の近くにあるキス税の認証機械が目に入り、近寄ってそれとなく触れた。

 つい、はぁとため息がこぼれる。

 これに振り回されてばっかり…。
 また南田さんがどこかへ行っちゃうってことにならないといいけど…。

 そんな華に覆い被さるように後ろから誰かの両手が壁に置かれた。

「そのままで聞いてくれ。」

 え…壁ドンってやつ?

 でも普通って逆向きじゃなくて?
 顔が見えない…っていうか首元に息がかかりそうで緊張するんですけど!

 後ろの人は声から南田だというのが分かった。
 南田が続けて口を開く。

「寺田さんのことは悪かった。
 僕に癒着の件を協力しないか打診してきたが、無下にしたために増悪を抱かれて。
 だから僕に関わらない方が…。
 いや…そうじゃなくて…。」

 そっか…南田さんは断った方だったんだ。

 華は一人、安心する。
 南田はまだ何か話し出そうとしていた。
「その…守るから…契約を今一度…。
 いや違うんだ。側に…いてくれないか?」

 守るって契約を守るってこと?
 なんだろう。南田さんは何を…。

 華の耳に道行く人の声が届いた。

「ねぇ。
 あの男の人、告白でもしてるのかしらね。
 耳まで真っ赤よ!」

 え…。

 華は驚いて振り向くと、南田の顔がすぐ近くにあった。
 その顔は確かに真っ赤で、振り向いた華に驚いた表情まで浮かべた。

 そしてそれを隠すように顔を片手で覆った。

「そのままで、と言ったはずだ。」

 動揺の声とも取れる上ずった声が聞こえる。

 どうしちゃったの?南田さん…。

 状況が飲み込めない華は戸惑っていた。