「その発端が南田って奴だったのさ。」

 やっぱり…。あのファミレスで会った女の人が?

「色恋沙汰で面倒なもの持ち込むなんて社会人としての自覚に欠ける。
 しかもその相手を警察に突き出すのも嫌だって言うんだぜ。どうかしてる。」

「それで責任を取って本人が会社を辞めるって言ったのよ。
 新人で可哀想だけど仕方ないかって、そんな感じだったわ。」

 自分の今後よりも嫌がらせする人を庇ったってことなのかな?それはどういう…。
 それも南田さんの優しさってこと?


「で、南田が辞めるって話が出た時に飯野さんが、俺が責任を取るって言ったのさ。」

 え…。飯野さんが?

「こう聞くとかっこいいんだけどね。
 ヘルプデスクが非を認めたみたいになって、うちらへの風当たりは当然強くなるわけ。
 それなのに若い芽を摘んではいけない。って言うの。飯野さんは。」

 どれだけ飯野さんは南田さんをかってたんだろう。

「でも大学に客員教授として招かれるような人を退職させられない会社は、苦肉の策としてあの小さい会議室に追いやったんだ。
 役職なんかは全部奪い取ってな。」

 なんだか…ひどい話。
 でも会社に損害を与えた人である南田さんをそのまま社内に所属させておくのは企業としてまずいよね。
 実際に最近も似たようなことがあったわけだし…。
 その代わりに飯野さんが…。

 華は複雑な思いで何も意見できなかった。

「まぁそれは済んだ話よ。今ではヘルプデスクを悪く言う人もいないし。
 飯野さんは飯野さんでたまに見つけてくる、あなたみたいな若い子を連れてきて教育してる。
 余生を楽しんでるみたい。」

 余生かぁ…。
 飯野さんはそれで良かったのかな。
 私は誰かのためにそこまでのことができるのかな…。

「今日いないのはまた別の話。
 客員教授として行っていた大学が今回の癒着に関係あるみたいで、それで何か知ってるか聞かれてるみたいだ。」

「癒着なんて飯野さんには関係なさそうだけどね。」

 ヘルプデスクの二人はなんだかんだで飯野さんのことをまだ尊敬しているんだろうなぁ。

 そう思いながら華は自分の職場に帰ることにした。